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東京高等裁判所 昭和23年(ナ)1号 判決 1948年11月05日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負擔とする。

事実

原告訴訟代理人は、昭和二十三年二月五日執行の參議院長野縣選出議員選擧による被告の當選を無効とする、訴訟費用は被告の負擔とする、との判決を求め、その請求の原因として、昭和二十三年二月五日執行された參議院長野選出議員の選擧において、原告及び被告は共に立候補し、原告は九萬八千五百二十九票を得たが當選を失い、被告は十八萬四千六百七十七票を得て當選人と定まり、同月九日その旨告示された。然しながら被告の當選は左の理由によつて無効である。本件選擧において各候補者は長野放送局から前後二囘に亘り繼續して政見發表の放送をすることを許容された。原告はその第一囘の放送を同年一月二十三日午後六時三十分から十三分間行い、その第二囘は同年二月二日午後六時十五分から九分間放送する豫定であつた。そこで原告は一月三十一日に放送原稿(甲第二號證)を長野放送局に提出したところ、同放送局は何等の理由を示すことなく、放送禁止を原告に通告し右原稿を返還してきた。依つて原告は別の放送原稿(甲第三號證)を同放送局に提出したところ、同放送局は放送當日の二月二日午後五時頃又も何等の理由を示さずに、原告に放送禁止を通告して來た。そこで原告は止むを得ず第一囘の放送原稿(甲第一號證)に基いて放送することの許容を求めたが、同放送局は、放送原稿は放送當日より二日前に提出すべきものであるとの理由で遂に原告の右要求をも拒絶した。かくして他の候補者は前後二囘の放送を行つたにも拘らず、原告は長野放送局の右放送禁止によつて放送の機會を得ることができなかつたのである。而して本件選擧における各候補者の政見發表の放送は、選擧運動の文書圖畫等の特例に關する法律第十一條の規定の準用によつて法律上の權利行使としてなされたものであるから、長野放送局の原告に對する前記の理由なき放送禁止は、參議院議員選擧法に準用されている衆議院議員選擧法第百十五條第二號及び第百十六條に違反し且憲法第十四條第二十一條の保障する基本的人權を蹂躙し、原告が法律上當然爲し得べき選擧運動を妨害した不當極まる所爲である。ところで放送事業の公營されているわが國においては、放送による選擧運動を候補者が各自自由無統制に行うことは禁止されているものと解すべきであるから、選擧運動に放送施設を利用することは、常に選擧管理委員會の統制管理の下にあるものというべきであり、從つて本件選擧において行われた政見發表の放送は、長野縣選擧管理委員會の統制管理下にあつたものである。故に同委員會は長野放送局の前記のような原告に對する不當なる放送禁止の取扱については、これを是正すべき權限を有し且義務を負うものである。然るに同委員會はこれにつき何等の措置を講ぜず本件選擧を實施したのは、結局同委員會が本件選擧を公正に行わなかつたもので違法なること勿論である。當時長野縣における放送聽取戸數は十九萬七千五十八戸あり、各戸には二名乃至五名の選擧權者が存在するから、原告が若し正當に放送ができたとすれば、原告の放送によつて影響される選擧權者は、少くも前記放送聽取戸數の半數から一名ずつを下らないから、その人員は九萬八千五百二十九名であり、この九萬八千五百二十九票は原告に投票さるベきものであつたのに、前記放送禁止による精神的心理的影響によつて、他の候補者に投票されたのである。故に若し前記放送禁止がなかつたならば、原告は右算定票を現實の得票九萬九千七百二十四票との合計十九萬八千二百五十三票を獲得できる筈であつた。一方被告の得票は原告の放送禁止がなければ得ベかりし投票によつて、相當減殺さるべきであつたから、冐頭掲記の十八萬四千六百七十七票を遙かに下廻り、被告が落選し、原告が當選すべき筈で明かに選擧の結果に異動を及ぼす虞れがある。故に本件選擧は當然無効たるべきものであるから、被告の當選も亦從つて無効たるを免れない。依つて原告は被告の當選を無効とする旨の判決を求める爲本訴に及んだのである。尚當選無効の訴で選擧そのものの無効を原因として主張することを禁止した規定がないのみならず、參議院議員選擧法に準用される衆議院議員選擧法第八十二條第二項の規定の趣旨から見れば、これが主張をなし得るものと解すべきであると述べ、立證として甲第一乃至第三號證を提出した。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答辯として、原告主張の事實中、昭和二十三年二月五日施行された參議院長野縣選出議員の選擧において、原告及び被告が共に立候補し、それぞれ原告主張のような得票を得て、原告は當選を失い、被告は當選人と決定され同月九日その旨の告示があつたこと、右選擧において各候補者が前後二囘繼續して政見發表の放送をすることを長野放送局から許容されたことは認めるが、原告が放送禁止を受けないとすれば獲得すべかりし得票數が原告主張の如くであることは否認する。その他の事實は知らない。原告が本件當選訴訟において選擧の無効を原因として主張するのは適法でないと述べ、甲號各證は不知と述べた。

理由

本訴が昭和二十三年二月五日に施行された參議院長野縣選出議員選擧における被告の當選を爭つているもので、所謂當選訴訟であることは、その訴旨により明かであるし、又選擧訴訟としては、訴の提起が、既に法定の期間を經過した後であることからも窺われる。而して原告がその原因として主張するところは結局長野縣選擧管理委員會がその統制管理の下にある長野放送局が原告の選擧放送を不當に禁止したのに對し、これを是正すべき權限と義務とを有するに拘らず、何等の措置を講ぜずして選擧を施行したのは選擧の公正を害するものであるから、右選擧は無効であり、從つて被告の當選も無効であるということに歸する。換言すれば原告は本件當選訴訟において。選擧の無効を原因として主張しているのである。

依つて先ず、當選訴訟において選擧の無効を訴の原因として主張することができるかどうかを審按するに、參議院議員選擧法に準用されている衆議院議員選擧法は選擧訴訟(同法第八十一條、第八十二條)と當選訴訟(同法第八十三條)とを別々に規定しているが、右規定によれば、選擧訴訟は選擧の管理執行が法規に違背することを理由として選擧それ自身の効力を爭う訴であり、之に反し當選訴訟は選擧の結果としての當選の決定に誤りありとして當選の効力を爭う訴で、選擧それ自身は一應有効であることを前提として居り、兩者は全然訴の目的を異にしているばかりでなく、前者は選擧長を被告とし、後者は當選人を被告として訴を提起することになつて居り又出訴期間の起算日も兩者同一ではない。かように法が選擧訴訟と當選訴訟とを截然區別して規定しているところから見れば。選擧訴訟においては選擧の無効を原因とすべきであり、當選訴訟においては當選の無効を原因とすベきであつて、選擧それ自身が無効であることを當選訴訟の原因として主張することは許されないものと解するのが相當である。尤も同法第八十二條第二項には、當選訴訟においても、裁判所が選擧の管理執行につき選擧の規定に違反するところあり、それが選擧の結果に異動を及ぼす虞れあるものと認めるときは、選擧の全部又は一部を無効とする判決を爲すべきことを定めているが、これは選擧に關する訴訟が一面公益に關する訴である關係上、選擧が無効であれば、當選訴訟は存立の餘地がないのであるから、裁判所が辯論の全趣旨及び證據調の結果によつて選擧が無効であると認めたときは、選擧の無効を判決すべきことを規定したに過ぎないのであつて、この規定は當選無効の訴において選擧の無効を原因として主張することを許した趣旨ではないと解すべきである。この趣旨は、同法第八十三條に「當選ヲ失ヒタル者當選ノ効力ニ關シ異議アルトキハ」といつているところからも看取するに難くない。ところが原告は、本訴において被告の當選は無効であるといいながら前記のように本件選擧が無効であるとする事實を主張するのみで、その他に被告の當選が無効であるとの原因事實は何も主張していないのであるから、結局原告の本訴請求はその原因を缺くものとして棄却するの外ないといわねばならぬ。依つて訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文の通り判決する。

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